広島の工場?

工場

工場

このあいだ芥川賞とった人の、賞以前の作品。表紙の絵がたぶんあそこで見た画家の作品だなあ…とひっかかっていた本。そして内容と奇妙に合っている。小学生の時「大きくなったら小説の表紙に合う絵を探す仕事の人になりたいです」という作文を書けばよかったなあ。

その町の人のあいだでは、そこで働けること自体が名誉視される、そんな工場で働く3人の男女が描かれる。何が生産されているかは明らかにされていない。主人公たちはそれぞれ意義が不明な、まったく不毛なように思われる仕事を担っている。私はコケの研究の人に思い入れを抱いた。
ありえないほどに広く、いびつにデフォルメされた工場。シュールといっていい作品なのだけれど、妙にリアルな設定だったりする。3人の立場が契約社員派遣社員、正社員(よく分からない特別待遇の)と異なっているところなど。
作者は広島出身と聞いていたので、マツダマツダ?でもこんな作品に対してモデルの詮索なんてナンセンスですよね、と思いながら読んでいたのだけれど、ネットで見かけた作者インタビューでも「自動車メーカーで働いた経験から」と答えているので、やっぱりマツダのようだ。工場の中に大きな川があって、「工場ウ」という固有種がいて、主人公たちが長いながい橋を渡るというクライマックス(というには盛り上がらないが)が印象深く、Googleマップで工場を呼び出し、地図を眺めた。
(あれれ、また川と鳥の話にたどりついてしまった。)

瀬戸本業窯


近代の瀬戸のほとんどの窯屋が工業製品としての磁器生産に邁進するなかで、陶器生産を行ってきた窯。陶器は、江戸後期に瀬戸で磁器生産が始まる前までの瀬戸で行われていた本来の仕事、という意味で「本業窯」と呼ばれるのだそう。いま「本業窯」と呼ばれるのは2か所あって、そのうちのひとつ、洞地区にある「瀬戸本業窯」を訪れました。
瀬戸で「手仕事」を大切にしている稀な存在ということからか、ここに「民藝」の人たち(濱田庄司やバーナードリーチとか)が来訪している(昭和30年代?)。麦藁手・馬の目皿・石皿・三彩皿なんかが現在のラインナップで「民藝」な感じがするのだけれど、彼らと実際に会った先代の人の絵付けの器は結構中国趣味な細かい山水が得意だったみたいだし(これは濱田的にはどうだったのだろう)、民藝の範疇には明らかに入らなそうな「本業タイル」というもの(これはこれで趣がある)も手掛けていたりして、モヤモヤと考えさせられるものがあって面白かった。
写真の登り窯はすでに稼働していなくて、見学用。中に入れます。登り窯は使っていないけれど、すぐ隣接して作業場があって、作業着の人が出たり入ったりしていました。今も生産(制作というべき?)を行っている窯屋さんでもあるわけです。
実は昔来たことがあるのだけれど、今回は窯の横に「窯横カフェ」というおしゃれなカフェが出来ていてびっくり。去年できたみたい。本業窯で作られた器を使ってごはんとかカレーとかが出てきます。しっかりおいしかった。私達のほかに、窯元めぐりの60代夫婦、カフェ好き女子、赤ん坊連れ、美大生?という感じの客層。小さな資料館(この窯や瀬戸で作られた古い器などを展示)とギャラリー(直販店)も最近整備された様子。器はわりと気合の入ったお値段。湯呑みをひとつ購入。お皿も欲しかったな…。