[本]さいきん読んだもの

年末年始から最近にかけて読んだもの。
北杜夫『どくとるマンボウ航海記』新潮文庫、1960
逝去のニュースを聞いて北杜夫読んだことないなあ…と思ったことを思い出して読む。船医としてマグロ漁船に乗った話。船旅の時間の感覚というものは、どんなだろうと思う。この世代のこのへんの人独特(なんだろうな)のはにかみというかひねくれというかが印象深い。パリで長年の友人のT夫妻こと辻邦夫・佐保子夫妻を訪ねる。「この幾何かの時間ほど楽しかったことは久しくなかった。持つべきものは友であり、また友などというものは少ないほどよい。」
この本を読んだ翌日、新聞に佐保子先生(と勝手に呼ぶ。西洋美術の研究者)の訃報。みんないなくなってしまった。
速水健朗『ラーメンと愛国』講談社現代新書、2011
戦後の食品流通の話なんかが面白かった。ご当地ラーメンなるものについての話も。私がよく行っていたラーメン屋の主人がどうしてああなのか!についての解説書ではなかったのは当然といえば当然か。(でもちょっと説いてあったかな)
酒井順子『都と京』2006、新潮文庫
引っ越し中の兄の処分本の中から抜いて読んだ。酒井順子って、兄よ…。やっぱり京都はおそろしいなあと思いながら楽しく読みました。京都に学んで全国に散る学生を京都ファンに育てるというのはまずまず成功しているよなあ(兄がこの本を持っていたのも結局そういうわけです)。
スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』白水社、1992
短編・掌編集。去年は色々な展覧会を見逃して歯ぎしりした年だけれど、そのうちのひとつが「モダンアート、アメリカン」(国立新美術館)。エドワード・ホッパーも来ていたのに。
そのホッパーの代表作「ナイト・ホークス」をモチーフとした「夜鷹」という作品があったのはうれしかった。それ以外の作品も夜のイメージ。「何だか一回の夜がずっとつづいているみたいだな」というせりふが2、3度出てくるけれど、何だか一回の(でも色々な)夜を繰り返しているみたいだったな。
訳者の柴田元幸さんが思い入れの強い本として随所で言及していた気がするけれど、そういえばまだ読んだことがなかったのでした。
・岡田屋鉄蔵『ひらひら』太田出版、2011
歌川国芳一門のわいわいがやがやを描いたマンガです。画家/絵師が機嫌よく生きているのを眺めるのは好いものだ。出てくる人がイケメンばっかりで見分けがつかないというのがやや難点。巻数が入っていないけれど次巻も出るのかな?
木内昇漂砂のうたう集英社、2010
小村雪たいの絵の表紙で気になっていて、明治初年の話というので読んでみたいと思っていた。図書館で行きあって、おうおうと借りて来てぐっと引き込まれて読了。上野の戦争の大砲の音の記憶もまだ生々しい頃、西南戦争が行われている頃の話。武家の次男坊の出身だけれども出奔し根津遊郭で働く男。旧時代に居所はなかったけれども、新時代にもついてはゆけない鬱屈。を、リセットする話かもしれないし、リセットしないでもちょっと顔を上げて生きてゆくことはできる話かもしれない。