あめりか

あめりか物語 (新潮文庫)

あめりか物語 (新潮文庫)

学生の頃に買って読まないまま10年以上経過した本。奥付を見ると第27刷、平成12年。
若い頃アメリカに4年ばかり遊学していた頃の見聞をもとにした短編集。高校の文学史の本にも太字で出ていたやつだから、どんなご立派なと思ったら、単身赴任の駐在お父さんの助平話みたいなの(というか、それそのもの)が幾つか交っていてちょっとどうなのと思ったりもした。しかし後半は荷風はもうこの頃から荷風なんだなあというふうになってきて(濹東綺譚ぐらいしか知らないけれど)、悪所独特の凄みのある女たちが続々出てくる。駐在・留学組は眉をひそめて立ち寄らないようなスラムにも分け入ってゆくのにはルポルタージュ的なドキドキ感もあったし、在米日本人社会の描写も興味深い。風景描写・自然描写も美しかったです。
私は読んでいる本や考えてているネタのことを日常会話の話題として出しがちで、「それは現在?何時代?」とよく迷惑がられる。この本の読書中にも「アメリ大寒波すごいね、脱獄囚が「寒いのでやっぱり戻ります」って自首したって」という話をしたら、やっぱり「荷風のあめりか?それとも今の?」と返されてしまった。寒波は現在です。駐在お父さんは荷風のです。