黒田日出男『豊国祭礼図を読む』

豊国祭礼図を読む (角川選書)

豊国祭礼図を読む (角川選書)

豊臣秀吉の七回忌に盛大に行われた祭礼を描いた絵(主に3つある)を歴史学の視点で読み解くという本。そのうちドラマや小説のネタ本になりそうな仮説が提示されていて面白かった。
この祭礼には秀吉の正妻・高台院(=北政所=おね)だけが臨席していた。その主賓たる高台院が絵の中で「怖い男顔のしわくちゃなおばあさん」として描かれている(狩野内膳筆)。なぜだろうねえ!というのが話題の一つ。
発注者は淀殿・秀頼で、家康寄りの行動をとる高台院に対して淀殿が「裏切り者!」と怒り、あんな顔で描かせて嫌がらせしたのであろう、というお話。そして数年後に描かれた同主題の別作品(狩野孝信筆?)では、高台院は品良く描かれている。これは高台院らが描かせて取り替えたものなんじゃないか…と。
ずいぶんチマチマした嫌がらせだなあとか、公開したとは言ってもその「おばあさん」はすごく小さいのでみんな気づくんかな?(高台院本人さえ気づけばいいのかな)とか、突っ込みたいところは色々あるけれど、あの絵・祭の背景にある「戦間期関ヶ原合戦大坂の陣)」の豊臣徳川間の緊張感をイメージすることが出来て良かった。
第3の作である岩佐又兵衛工房の同主題画(私はこれが一番好き)では、「かぶき者」の刀の朱鞘に書かれた「いきすぎたりや二十三 八まん ひけはとるまい」の語に注目。これは当時流行していたフレーズ*1だけど、普通は年齢のところが「二十五」のはず。この絵ではどうして「二十三」なのか?23歳で死んだある重要な人物の見立てなんじゃない?という話も面白かった。

*1:「乱世が終わったのに生き残ってしまった/生まれ後れた」感があふれていてとても印象深い